シラーの「非」劇――アナロギアのアポリアと認識論的切断 青木敦子 著
悪の輝きへの憧れは頂点を極める刹那に破綻し、悲劇と喜劇の「混合」の場では悲劇的運命さえも滑稽さを纏い、「世界大劇場」の舞台では時空さえ反転する。後期シラーの崇高な英雄の世界に対して、前期のこの混乱と矛盾は何ゆえか。ここにある認識論的切断がカント体験によってもたらされる現場を描出する著者の力業が、前期シラーの悲劇の構造を明らめる。
陥没地帯 蓮實重彦 著
「ぼくは知っています。知っているといっても、それは証人もいない砂丘で演じられた動機不明の暴行事件、犯人ともども犠牲者までが姿をくらましてしまったという、とりとめのないできごととはわけがちがう……」。難破する船、女将、少年と姉、脱走兵、これは物語の生成を物語る物語り、あるいはメタフィクションか? 蓮實重彦初の純文学書下し。
電脳暮し 水上 勉 著
心筋梗塞で心臓の三分の二を失い、網膜剥離で片眼を失った老作家は「これで闇を頂戴できた」と思う。そして、コンピュータを杖代わりに、慧端の「一日暮し」ならぬ電脳暮をはじめる。十歳で禅寺に入った作家は、般若心経を耳で諳んじたが、打った平仮名が漢字に変わるコンピュータは、その遠い反復か。生きることと禅とがひとつになって、八十坂を超える。
風街物語 井辻朱美 著
「-- 風街は《夜》の山脈の背後にあり、世界のすみずみから風が夢を吹きこんでくる街である」。詩と神秘の「風街物語」、騎士と吟遊の「エルガーノの歌」、神と永生の「ファラオの娘」、SFと古生物の「進化の物語」、魂と浄化の「帰郷」の五つの物語が交響してファンタジーの裸形が甦る。今日の文学の可能性の中心に、勁やかな芽が一つ萌え出るのだ。
哲学書簡 四方田犬彦 著
際限ない移行途上の言葉、テクストの終末という観念にさからって運動しつづけるエクリチュール、手紙。これは二人の死者、一人の虚構の人格、そして十数人の生者にあてた手紙とポストカード。物語の困難と不可避について、ものの消滅と時間の夢想について、ポストモダンという流行語について論じる、ヴォルテールのひそみにならって試みられた実験。
叙事詩の権能 四方田犬彦 著
その成立に八百年を要した世界最大の叙情詩『マハーバーラタ』。今日、物語の困難がいわれるが、ひとはかつて叙情詩に飽きたことがあったか?ルカーチ、ブレヒト、バフチンは叙情詩と格闘して二十世紀の文学理論を拡いた。ブルック版を検討し、原典に踏み込む、初の本格的『マハーバーラタ』論から、バフチン、三島由紀夫、出口王仁三郎に至る。
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