生誕百周年(07年9月22日)記念出版。
晩期ブランショにおける評論活動の頂点となる最重要論考を初出誌版(1969年)より初邦訳。書くこと、書物、作品、法をめぐる未聞の思考が開示される。著者最大の評論集『終わりなき対話』の末尾におかれた同論考の単行本版との異同を付す。
対話なき暴力が充満する現代に、ことばの力と可能性を鋭く問いかける新しいシリーズ、「叢書・エクリチュールの冒険」の第一回配本! 初版限定800部。
原著:Maurice Blanchot, “L’absence de livre” in L’Ephemere, no.10, 1969, Paris: Edition de la Fondation Maeght.
◎本書の装丁について:鮮やかな朱色の紙に濃い墨色で本文を刷り、肌触りがなめらかな漆黒の布クロスで製本しました。漆黒の布クロスには銀色の箔押しで原題が刻印されています。カバーには本文と同じ朱色の紙を使用し、最小限の文字情報のみのシンプルな装丁になっています。見た目の簡潔な美しさを重視しているため、オビは付しません。
◎叢書「エクリチュールの冒険」について:
「ことば」への関心を私たち現代人はもはや失ってしまったのだろうか。「ことば」は書き方や話し方における技術の問題に過ぎないのだろうか。賢さや愚かさは「ことば」の技術の問題なのだろうか。「ことば」は嘘に過ぎないのだろうか。
20世紀文化の知的位相を形成した諸潮流においてはむしろ、文学における言語実験、哲学における言語論的展開、言語への記号学的な接近、そして勇気ある証言と告発の政治が国境を越えて観察できる。「ことば」への関心に深く根ざす運動は、「ことば」を圧殺し簒奪する怪物的事件の傍らにおいてすら、実践され続けてきたのではなかったか。
〈9・11〉に象徴される、「ことば」なき暴力のヴァンダリズムに曝されつつある21世紀は、世界大戦や絶えざる内線と紛争に彩られた前世紀の延長上にある。数々の問答無用な攻撃と苦悩の沈黙は、「ことば」の信頼を常に裏切り続けてきた。対話の円卓に就いてもなお、バベルの混乱は続いたのだ。混乱期における「ことば」の可塑性と 可能性を再び問うこと、それは20世紀的人間を再審することであるとともに、21世紀のバベルを解体する試金石でもある。