井口時男批評集成――批評の方へ、文学の方へ
井口時男

¥4,500 (税別)

2025年02月14日取次搬入予定

  • 刊行年月:2025年2月
  • 46判 上製712頁
  • 縦188mm×横130mm×束幅48mm
  • 重量780g
  • 本体価格4,500円
  • ISBN:978-4-86503-200-0 C0095

透谷から安吾、中上、江藤、大江、車谷まで、近代・戦後・現代の文学を破局と転生のドラマとして読み解く、これが文芸批評だ! 1983年に中上健次論でデビュー以来40年、強靭な批評を貫いてきた批評家による文学の記念碑、未刊行批評集成、78編、700頁余の文学の大山脈。「文学とはなまなましいものだ。時に現実以上になまなましいものだ。だからこそ文芸批評は、知性と想像力の両方を、具体と抽象の両方を、緊張のうちに保持していなければならない」「対象やテーマに応じて理論や方法を構えもしたが、結局、徹底して「読む」こと以外に批評の便利な方法などなかったのである」(本書より)。

目次

Ⅰ 批評の方へ
小林秀雄と佐藤春夫:エッセイと昭和批評
宿命と単独性:小林秀雄と柄谷行人
「義」としての朝鮮、「やましさ」としての父親:中野重治と朝鮮
断言する中野重治/口ごもる中野重治
超越者としての戦争:橋川文三『日本浪漫派批判序説』
空虚なるものの誘惑:保田與重郎『文学の立場』
文学の隣人:『柳田國男文芸論集』
感受性の自己肯定:奥野健男
批評する「私」:江藤淳論
江藤淳『自由と禁忌』
批評の公正さということ:江藤淳『小林秀雄』
考えることをしている:秋山駿『舗石の思想』
内部の人間/外部の人間:秋山駿『内部の人間の犯罪』
出会いという「事件」:秋山駿『小林秀雄と中原中也』
持続と切断:柄谷行人『畏怖する人間』
言語とモラル:柄谷行人
なまなましい抽象力の運動 柄谷行人『中上健次と坂口安吾』
二人の永山則夫:『法廷調書』
孤独なテロリストたちに贈る九句
II 近代文学の方へ
われらの狂気を……:北村透谷
北村透谷と近代文学の「系譜」
正宗白鳥の漢意
徳田秋聲の「リアリズム」
不孝にして不敬なるもの:嘉村磯多の身と心
暴力へ、現場へ:小林多喜二
山川草木/天変地異:井伏鱒二の自然
敗者の滑稽、弱者の哀れ(抄):火野葦平
火野葦平の「戦場」:表象する権能をめぐって
頽廃する二人称または再帰代名詞の喪失:太宰治
イロニーと天皇:太宰治「右大臣実朝」
扉を蹴倒す風について:坂口安吾『堕落論』
文学に抗うもの:坂口安吾論
野生の視力:坂口安吾「文学のふるさと」
「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」
坂口安吾はアイロニーを知らない
III 戦後文学の方へ
自明性への抵抗:戦後文学について
見えない「日本」:浴室の中の武田泰淳
武田泰淳の「世界」:『わが子キリスト』
転向とユーモア:椎名麟三『道化師・媒酌人』
「ほんとうにほんとう」ということ:椎名麟三『深夜の酒宴・美しい女』
不可能性の饗宴に向けて:埴谷雄高『死霊』九章
誤謬と訂正:三島由紀夫と蓮田善明
「正名と自然」再び:大西巨人
「自由」への途上にて:李恢成『われら青春の途上にて・青丘の宿』
葛藤する言語:沖縄戦後小説瞥見
強いられたものを引き受けること:田中小実昌
拒まないことと拒むこと:田中小実昌『香具師の旅』
「大審問官」の敗北:高橋和巳『悲の器』
原罪とユートピア:高橋和巳
H・E・ノサック小論:『影の法廷』と漱石と村上春樹
石原吉郎私記:「位置」精読
IV 現代文学の方へ
口紅のついた萎えた紙幣:大庭みな子「三匹の蟹」を読む
遠藤周作の無力な神
筒井康隆『夢の木坂分岐点』
時差と分身:古井由吉『白髪の唄』
空襲世代の終末論:古井由吉『白暗淵』の世界を紡ぐ文体
揺らぐ文字:中上健次『化粧』
他者としての秋幸:中上健次『地の果て 至上の時』
浄土と楽土:中上健次と仏教
衰弱という詩法:吉田文憲論
ファシストの意気沮喪夫:村上龍著『愛と幻想のファシズム』
小説は他人を巻き添えにしてよいか:『石に泳ぐ魚』裁判をめぐって
「十四歳の少年」の父親殺し:柳美里『ゴールドラッシュ』
残酷にして甘やかなもの:車谷長吉著『漂流物』
「異者」の文学:車谷長吉『漂流物・武蔵丸』
松浦寿輝『あやめ 鰈 ひかがみ』
意識に隠されたもの:中村文則『土の中の子供』
十四年を隔てて河林満に贈るこの世の四季の十句
「田舎者」の世界文学:室井光広追悼
木霊の森で:室井光広追悼
追悼句による室井光広論のためのエスキース
「事故」としての生命:大江健三郎
テキストとしての一人称:大江健三郎『僕が本当に若かった頃』
大江健三郎「晩年」という思想
あとがき
初出一覧
人名(作品)索引

井口時男(いぐち・ときお)
1953年新潟県南魚沼市生まれ。1983年、中上健次論「物語の身体」で群像新人文学賞評論部門受賞。1994年、評論集『悪文の初志』で平林たい子文学賞受賞。1997年、『柳田国男と近代文学』(講談社、1996年)で伊藤整文学賞受賞。2020年、『蓮田善明――戦争と文学』(論創社、2019年)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2023年、句集『その前夜』で現代俳句協会賞受賞。ほかの著書に、『批評の誕生/批評の死』(講談社、2001年)、『危機と闘争――大江健三郎と中上健次』(作品社、2004年)、『暴力的な現在』(作品社、2006年)、『永山則夫の罪と罰――せめて二十歳のその日まで』(コールサック社、2017年)、『金子兜太――俳句を生きた表現者』(藤原書店、2021年)など。

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