世界文学と民衆史の交点から紡ぐ群衆論の新地平――なぜデモや抗議活動の参加者は群衆や暴徒と名指されるのか。なぜ人が集まると危険とみなされるのか。本書ではこれらの眼差しの起源を植民地統治にみる。英米文学からカリブ/アフリカ文学までを扱い、植民地出身の知識人が、否定的な群衆像をいかにして大衆や人民、民衆という主体へと肯定的に読み替えたかをたどる。ジョウゼフ・コンラッド、C・L・R・ジェームズ、リチャード・ライト、ジョージ・ラミング、グギ・ワ・ジオンゴらをめぐる、新たな第三世界文学論。
「はじめに」より:「本書は、ハイチ(サン・ドマング)、バルバドス、ケニア、韓国からインドネシアにまで渡る広範な地域の大衆や群衆の表象を対象とする。〔…〕反体制的で集合的な行為体を大雑把に一般化するのではなく、これらの発明において、時代的、政治的、社会的、あるいは内発的な要請を受け止めつつ、個々の作家や思想家が形を与え、向き合ってきた大衆や民衆とは何だったのかということを具体的に読み解く。〔…〕それぞれ別様の語彙を発明することが、植民地と帝国からの離脱を目指す思想、文学および運動にとっていかに不可欠であったかを明らかにすることが主眼となる」。