テクストと向きあう〈読むこと〉の透徹した営みによって、現代における批評の新たな方向性を決定づけた古典。ブランショ、プーレ、デリダらと果敢に対峙し、不可避的な内的齟齬への盲目性によって彼らの洞察そのものが支えられていることを暴く。鋭利な考察が今なお輝きを放つ、イェール学派の領袖の主著。1971年初版本よりの完訳。
「叢書・エクリチュールの冒険」第4回配本
【本書の造本について:青味がかった白い本文用紙に、青緑色のインクで刷っています。カバーはマット加工したパール系の紙に、書名をメタリック・ブルーの箔で刷っています。帯は付しません。】
「本書は、時間をかけてゆっくりと継承されるべき書物である。本書によって、文学をめぐるわれわれの悪弊となってしまった寝惚けた読みと軽率な語りは攪乱されるだろう。[…]思うに、本書は、現代においてもっとも影響力のある批評書の一冊になるかもしれない」。――ロバート・マーティン・アダムズ『ハドソン・レヴュー』
「現代批評理論の古典のひとつ」。――ジョナサン・カラー
「『盲目と洞察』は、私がこれまで読んだなかで、もっとも精妙な議論をもたらしている書物である。本書は、絶えず躍動する知性の産物である。ここにそなわっているのは、「精神が持て余している思考のざわめき」とウォーレンス・スティーヴンスが呼んだものにほかならない」。――ジェフリー・ハートマン『アメリカン・スカラー』
原書:Blindness and Insight: Essays in the Rhetoric of Contemporary Criticism, Oxford University Press, 1971.
本書の底本について:『盲目と洞察』は1971年にポール・ド・マンの初めての著書としてオックスフォード大学出版から刊行され、逝去した1983年に第二版がミネソタ大学出版から刊行されました。初版は著者の「まえがき」と9つの章から構成されています。一方、第二版では初版の内容に加えて、著者の「第二版へのまえがき」と、編者のウラド・ゴズイッチによる序文、そして、第10章〜第12章までの3つの論文と、付録として2つの論文、合計5つの論文が追加されています。この第二版の版権でミネソタ大学出版が扱っているのはわずかに「第二版へのまえがき」とゴズイッチの序文、そして第11章と第12章(ともに原文仏語)のゴズイッチによる英訳のみであったため、まず、オックスフォードが権利を扱っている初版本を今回全訳し、残りの出版は他日を期すことといたしました。
ポール・ド・マン既訳書:
1992年05月『理論への抵抗』大河内昌・富山太佳夫訳、国文社
1998年03月『ロマン主義のレトリック』山形和美・岩坪友子訳、法政大学出版局
2005年01月『美学イデオロギー』上野成利訳、平凡社
2012年09月『盲目と洞察 現代批評の修辞学における試論』宮﨑裕助・木内久美子訳、月曜社
■既訳について:『盲目と洞察』はかつて季刊誌「批評空間」で第3章、第7章、第10章、第12章が翻訳されたことがあります。第5章の後半は月刊誌「ユリイカ」で、第8章は月刊誌「現代詩手帖」で翻訳されたことがあります。
■ド・マンと日本の書き手:
1)柄谷行人(1941-)――「批評空間」の編集委員だった柄谷行人さんはド・マンと交流があり、「ポール・ド・マンの死」という一文を月刊誌「群像」1984年7月号に寄せておられます。この一文は『批評とポストモダン』(福武書店、1985年;福武文庫、1989年)や『差異としての場所』(講談社学術文庫、1996年)に収録されています。また、柄谷さんには、ド・マンと反ユダヤ主義の関係について言及した「ファシズムの問題――ド・マン/ハイデガー/西田幾多郎」という88年の講演があり、『言葉と悲劇』(第三文明社、1989年;講談社学術文庫、1993年)に収録されています。
2)水村美苗(1951-)――かつてド・マンの元で学んだ作家の水村美苗さんには「リナンシエイション(拒絶)」というド・マン論があります。96年に「イェール・フレンチ・スタディーズ」で組まれたド・マン追悼特集号に発表されたもので、『日本語で書くということ』(筑摩書房、2009年)に収録されています。
■ド・マンとイェール学派:ド・マンとともに、アメリカでニュークリティシズム以後の批評理論を担い、ジャック・デリダの「脱構築」の受容に貢献したと言われるイェール大学の文学研究者に次の人々がいます。ハロルド・ブルーム(Harold Bloom, 1930-)、ジェフリー・ハートマン(Geoffrey Hartman, 1929-)、J・ヒリス・ミラー(J. Hillis Miller, 1928-)。ド・マンとあわせてこの4人が「イェール学派」の四天王と呼ばれています。ブルームの訳書には『アゴーン――〈逆構築批評〉の超克』(晶文社、1986年6月)、『カバラーと批評』(国書刊行会、1986年11月)、『聖なる真理の破壊――旧約から現代にいたる文学と信』(法政大学出版局、1990年)、『影響の不安――詩の理論のために』(新曜社、2004年)があり、ヒリス・ミラーの訳書には『小説と反復――七つのイギリス小説』(英宝社、1991年)、『イラストレーション』(法政大学出版局、1996年)、『批評の地勢図』(法政大学出版局、1999年)、『読むことの倫理』(法政大学出版局、2000年)、『アリアドネの糸――物語の線』(英宝社、2003年)、『文学の読み方』(岩波書店、2008年)があります。また、ド・マンの弟子筋には、バーバラ・ジョンソン(Barbara Johnson、1947-2009)、ガヤトリ・スピヴァク(Gayatri C. Spivak, 1942-)、ショシャナ・フェルマン(Shoshana Felman)、サミュエル・ウェーバー(Samuel Weber, 1940-)といった人々がいます。
■ド・マン論:訳書では、マーティン・マックィラン『ポール・ド・マンの思想』(土田知則訳、新曜社、2002年)があります。未訳本では、ジャック・デリダ『メモワール――ポール・ド・マンのために』(ガリレ、1988年)や、ロドルフ・ガシェ『読むことのワイルド・カード――ポール・ド・マンについて』(ハーヴァード大学出版、1998年)などがあります。