世界のかなしみ――『苦海浄土』全三部試解
髙山花子

¥2,600 (税別)

  • 刊行年月:2025年10月
  • 46判並製256頁
  • 本体価格2,600円

ISBN:978-4-86503-213-0

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世界的な文学として、歴史の証言として、比類なき思想と魂の書と評価されてきた、石牟礼道子『苦海浄土』。その読解はまだ始まったばかりである。注目の新鋭がその端緒を開く。『苦海浄土』全巻を深く細やかにひもとき、その奥底に分け入りながら、「生へのまぼろし」へ至りつく、探究の結晶の書。「本書は、音響、フィクション、文書、生死、生殖、幻といったテーマに目を向けながら、人間を問い、いのちを見つめ、この世界のかなしみを言葉にしている書物として、『苦海浄土』三部作を読もうとするささやかな試みである」(序章より)。

目次

序章 『苦海浄土』を読むために
一 かなしい世界?
二 混沌の響き、人間への問い
第一章 音風景と新たな聴覚
一 音響世界
二 耳の鋭い子供たち
三 未聞の音への感度
四 人間でも動物でも機械でもなく
(一)故障したテープレコーダー
(二)おめき声、犬吠え様
(三)ゆき女の声
(四)もう歌われない「七つの子」
五 声が歌になるとき
第二章 御詠歌の舞台性
一 炸裂する御詠歌――「狂い」の晴れ舞台
二 『辺境』に連載された『神々の村』――ヒルコ神話からチッソ株主総会へ
三  執筆断絶と未完性――第二部『神々の村』生成過程
四 映画『水俣』との異同―― 一株運動、「苦海浄土」基金、発話障害の差異
五 心の深淵――狂乱の舞台と醒めた視点、「フィクション」としての聞き書き
第三章 文字の世界
一 文書作成の熾烈さ
二 文字以前の世界へ
三 カタカナの使用と呪力――下層民の世界
四 非人になる=文字を書く――本来の生から離れて
五 存在の位相から離れる―立身出世と〈紙〉、ビラ闘争への参与
第四章 人間の生死
一 人間、その生死――「もう一ぺん人間に」
二 魂をめぐって――人間の魂
三 生にも死にも分類されえない〈生〉
四 通常の人間の魂?――判断の根底にある優生思想
五 杢太郎の爺さまによるさち子の中絶――命の選別
六 生まれ替わりについて――死生観
七 自殺、代替不可能性、愛
第五章 家族、性愛、もうひとつのこの世
一 少女たちの月経と排泄
二 異性愛、規範的結婚、人間の本能――「本来」とは何か
三 現代の性と生命――騒音都市と培養の時代
四 「愛情論初稿」におけるエロス
五 高群逸枝の痕跡――『苦海浄土』と石牟礼自身の思想の差異
六 新しい子供たち、その生のリアル――さやかな息遣い
第六章 不可視の世界、存在しないまぼろし
一 まなこの裏の景色――桜、雪、みやこの春
二 現実にある幻の領域
三 生類のみやこから「流民の都」へ
四 『苦海浄土』におけるまぼろしの位相
終章 人間の〈いのち〉、その不思議――サクリファイスではなく

あとがき

髙山花子(たかやま・はなこ)
明治大学理工学部助教。著書に、『モーリス・ブランショ――レシの思想』(水声社、2021年)、『鳥の歌、テクストの森』(春秋社、2022年)。訳書に、ジャック・ランシエール『詩の畝――フィリップ・ベックを読みながら』(法政大学出版局、2024年)、モーリス・ブランショ『文学時評1941-1944』(共訳、水声社、2021年)など。

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