SF古典の巨匠のユートピア小説、待望の初訳。実現しうる理想社会か、行きすぎた管理社会か――シリウスの彼方に位置するもうひとつの地球で優秀なサムライたちが営む世界統一国家の様相を描いた実験的小説 A Modern Utopia(1905年)の完訳。その先進的社会像は、ウェルズによる当世批判であり、先人たちのユートピア観を乗り越える、より現代的で実際的な段階的変革の提示でもあった。ウェルズが追い求め続けた理想の可能性と限界は、本書で明らかになる。本作の思想的背景や問題点に光を当てる訳者解説を付す。叢書・エクリチュールの冒険、第25回配本。
「現代の夢想者が考える〈ユートピア〉は、ダーウィンが世界の思想を活性化した時よりも前に計画された諸々の〈どこにもない国〉や〈ユートピア〉とはひとつの基本的な点で異なっていなければなりません。それ以前のものはどれもが完全で、静的な〈国家〉であって、幸福の優勢さが、諸事情に内在する不安定と無秩序の力と戦って、永遠に勝ち取られたものでした。〔…〕しかし、〈現代のユートピア〉は静的ではなく、動的でなければなりませんし、恒久的な状態としてではなく、長い上昇をなすいくつもの段階へとつながる、希望に満ちた一段階として形作られなければなりません」(第一章「地誌」より)。