20世紀フランスを代表する作家、アルベール・カミュの初期随筆集『Noces』(1939年)の新訳。「ティパサでの結婚」「ジェミラの風」「アルジェの夏」「砂漠」の4篇を収録。地中海地方の白い砂浜、輝く太陽、青い空、吹き渡る風、芳香を放つ色とりどりの花々……世界の美しさを肌で感じつつ、今このときを生きることへの讃歌が綴られる。生きること、それは自然との結合であり、世界との結婚だった。
叢書・エクリチュールの冒険、第24回配本。
「昼少し前、わたしたちは廃墟を通って、港の端の小さなカフェに戻った。太陽と色彩のシンバルが鳴り響く頭にとっては、影にみちた部屋や、緑色の冷えたペパーミントが入った大きなグラスほど、爽やかな歓待はない! 外は、海と埃っぽい焼けついた道路。テーブルの前に座って、しばたく睫毛のあいだに、白熱の空の多彩な眩惑を捉えようとする。顔は汗でぬれているが、軽いシャツを着た身体はすがすがしく、わたしたちはみな、世界と結婚した幸福な一日の疲労をさらけ出す」(「ティパサでの結婚」より)。