最後の場所 現代美術、真に歓喜に値するもの
南嶌宏

¥3,500 (税別)

〈美術の現場〉からつむぎあげた美術評論集。

  • 刊行年月: 2017.11
  • 46判上製592頁
  • 本体価格3,500円
  • 18.8 x 12.8 x 3.3 cm
  • ISBN978-4-86503-052-5
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「私たちが回復すべきもの――複数の視覚、複数の言語、複数の貨幣、複数の記憶が響き合う世界」へ向けて、いわき市立美術館、広島市現代美術館、熊本市現代美術館など、国内の主要な現代美術館の設立に参画した南嶌宏が、同時代のアーティストたちと火花を散らすように共闘した実践=〈美術の現場〉からつむぎあげた類のない美術評論集。本書は、この世を去る日が近いとは思わぬまま、本人が刊行の準備を進めたものであり、未来へ受け継ぐべきものを書き残した「遺書」となった。

編集委員/倉森京子(NHK)・日沼禎子(女子美術大学)・保坂健二朗(東京国立近代美術館)

目次

1章
voceの遠景 アン・ハミルトン
飛ぶ教室 死を越えていくためのパンセ 八谷和彦
静聴せよ。美と共同体と芸術闘争に就いて、静聴せよ 森村泰昌
死の光、再び 宮島達男
ノヴェンバー・ステップス 日比野克彦
霊性の凱旋 やなぎみわ
絶対の孤独 岡本太郎
ディスレクシアの海 草間彌生
イレネの抱擁 海老原喜之助

2章
聖なる記憶の媒介者 横尾忠則
「ホビイ模型店」に帰る道 横尾忠則
彼は誰と約束をしたのか 舟越桂
世界を再び眠らせないために 遠藤彰子
「直後の場所」に立つ意志 殿敷侃
白い夜の歩行のために 塩田千春
「アショカの森」へ 崔在銀
内破と結晶 進行形の「新具象彫刻展」
双頭の影、再び 「日常事変」展に寄せて
《雨の日》の前に立って 独立美術協会八十周年
タナトスの雫 春口光義
花に触れる怖さ
花をいけばなたらしめるもの
「造形いけばな」 不可視の形象に向かって

3章
真に憎悪に値するもの
ATTITUDE 2002 心の中の、たったひとつの真実のために
ATTITUDE 2007 人間の家——真に歓喜に値するもの
いのちの芸術への巡礼
二つの約束 追悼 田中幸人
「人間の家」としての美術館を目指して

4章
ポップの心臓を、与えられたとせよ
ケネス・タイラーとアメリカ現代美術
「人間すべてに未来があるとは限らない」 ベネチア・ビエンナーレ二〇〇一
共生社会への転換 イスタンブール・ビエンナーレ二〇〇一
黒人に語られる白人美術史 五つの国際美術展を見て
「鑑賞者」とは誰か 第五十回ベネチア・ビエンナーレ(二〇〇三)
虚構としてのナショナリティ ベネチア・ビエンナーレ二〇〇九
百科全書という宇宙 ベネチア・ビエンナーレ二〇一三
不可視の富をつなぐ態度 ドクメンタ13
未来の再読 プラハ国際芸術トリエンナーレ二〇〇八
プラハ国際芸術トリエンナーレ二〇〇八に参加して

5章
知られざる東欧の現代美術
小さな奇跡の始まりに マリーナ・アブラモヴィッチ
ホイットニー・ビエンナーレのマリーナ・アブラモヴィッチ
一人、遠く離れて ラーシャ・トドシェヴィッチ
記録映画『議事堂を梱包する』 クリスト
東欧日記 射抜くまなざし
セルビア(1)/セルビア(2)/ボスニア・ヘルツェゴビナ/スロベニア/チェコ/スロバキア(1)/スロバキア(2)/ベラルーシ/ドイツ、アルメニア/エストニア/リトアニア/アウシュヴィッツ/ルーマニア/ブルガリア(1)/ブルガリア(2)/ハンガリー

6章
セザンヌの山から VOCA二〇〇八
真に「自由」を奪われたことがあるか VOCA二〇〇九
密やかな口語性について VOCA二〇一〇
窓の外を見たまえ! VOCA二〇一一
見続ける光 VOCA二〇一二
「その先」で私たちを待つ者 赤崎水曜日郵便局
熱情の彼方 「ベストセレクション 2012」の意味するもの
国家への信頼と国立美術館
「反芸術」の現在
人間と物質のあいだに 「UBEビエンナーレ」と中原佑介
屋根裏の巨人 大辻清司
死のヴェールとエロティシズム
「ここから見える景色は最高」 感性の散歩者たち
シオニズムを超えて ダニ・カラヴァン
愛のメディア 「トレース・エレメンツ」
もうひとつの「近代」への距離沖縄プリズム1872-2008
誰のために「南」は描かれたか 「美術家たちの「南洋群島」」展
権威と大衆 北京国際芸術ビエンナーレ
宇宙と人間の和合 現代中国国画展
《明日の神話》の帰る場所
最後の「居場所」 上野聚楽台
Identity 「私」が「私」であるために

7章
真実の形象 森田元子
讃美と礼節 入江一子
生の全肯定 堀文子
「女子美スピリッツ二〇一四」 金山桂子
夜の光 佐野ぬい
光の子 田部光子
生と死の面影 清水美三子
羊水の海へ 今田淳子
近代の偽装を超えて サエボーグ
死守すべきもの 鈴木かよ
生の闇と死の光 奥谷博
抑制と調和の芳香 佐藤泰生
エロスの塔 澄川喜一
月と石――安田侃
風の神殿――本田貴侶
「空」へ向かう彫刻 藤島明範
内なる桎梏に抗して 島田忠幸
ヒエログリフ・ダイアリー 木下晋
ステガノグラフィック・ロマン 石黒昭
死生の華 工藤和彦
裸形の華 松田隆作
小さき中心 川瀬敏郎
霊性の継承 小原宏貴
[書評]星埜守之『ジャン=ピエール・デュプレー 黒い太陽』
[書評]横尾忠則『ポルト・リガトの館』
[書評]横尾忠則『言葉を離れる』
[書評]『虚像の時代 東野芳明美術批評選』松井茂+伊村靖子編
[書評]和多利志津子/恵津子/浩一『夢みる美術館計画 ワタリウム美術館の仕事術』
[書評]黒ダライ児『肉体のアナーキズム』
[書評]『長谷川潾二郎画文集 静かな奇譚』土方明司監修
[書評]海野弘『花に生きる 小原豊雲伝』
[書評]水木悦子+赤塚りえ子+手塚るみ子 『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』
[書評]岡本和明『昭和の爆笑王――三遊亭歌笑』

8章
アイデンティティの忘却に向けて
戦後美術における「人間」と「物質」

補遺
反近代の逆襲 生人形の生と死
生人形と江戸の欲望――死の横に立つ異能者たち

編集委員あとがき
引用文献一覧
初出一覧
著者略歴
関係者一覧

 

紹介記事

  • 無記名氏記事(「東京新聞」2017年12月10日付「読書」欄)
  • 小池一子氏記事(「朝日新聞 be」2017年12月2日付 「めぐる 時間・空間・私」欄「好奇心が強いキュレーター」)
  • 村澤聡氏書評(「南信州新聞」2017年11月18日付「BOOKS 書考」欄「自らの至上のスタイルで」)

南嶌宏(みなみしま・ひろし)
1957―2016年。長野県生まれ。女子美術大学芸術学部芸術学科教授。キュレーターとして「生人形と松本喜三郎 反近代の逆襲」(2004)、「ATTITUDE2007 人間の家」(2007)など話題となる展覧会を多数企画。2009年第3回西洋美術振興財団学術賞受賞。プラハ国際芸術トリエンナーレ2008国際キュレーター、第53回ベネチア・ビエンナーレ日本館コミッショナー(2009年)を歴任。
著書に『ベアト・アンジェロ 天使のはこぶもの』(トレヴィル、1992年)、『サンタ・マリア』(トレヴィル、1993年)、『豚と福音』(七賢出版、1997年)がある。 美術を通して、ハンセン病への社会的偏見に対する活動や、生人形や見世物文化の価値を再発見する取り組みを行った。

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