1920年代をパリの区々を舞台に、芸術・革命・数学・恋愛にぶつかりながら彷徨する、 クノー初期の自伝的小説であり、アンドレ・ブルトン率いるシュルレアリスム運動への参加と決別を描いた実録的な小説でもある。
ゴダールの映画「はなればなれに」(1964年、アンナ・カリーナがオディールという名の役を演じている)にも引用(下敷きに)された知られざる傑作。本邦初訳。
原著 [フランス]: “Odile” 1937, Gallimard
¥2,200 (税別)
宮川明子[訳]
20世紀フランスを代表する作家の瑞々しい初期小説
1920年代をパリの区々を舞台に、芸術・革命・数学・恋愛にぶつかりながら彷徨する、 クノー初期の自伝的小説であり、アンドレ・ブルトン率いるシュルレアリスム運動への参加と決別を描いた実録的な小説でもある。
ゴダールの映画「はなればなれに」(1964年、アンナ・カリーナがオディールという名の役を演じている)にも引用(下敷きに)された知られざる傑作。本邦初訳。
原著 [フランス]: “Odile” 1937, Gallimard
レーモン・クノー Raymond Queneau
フランスの作家。
1903年ノルマンディー(北フランス)の港町ル・アーヴルに、小間物屋の一人息子として生まれる。 1920年パリ大学に入学、哲学を専攻した。
24年シュルレアリスム運動に参加。25年から27年まで兵役でモロッコにおけるリフ戦争に従軍、 その間兵隊仲間による卑語・俗語の洗礼を受け、のちの話し言葉による彼の文学の下地が形成された。29年ブルトンと訣別、シュルレアリスム運動から離脱した。
33年処女作『はまむぎ』〔滝田文彦訳、白水社、新装版2001〕を発表して作家の道を歩み始め、『オディール』(1937)『泥土の子どもたち』(1938) などの小説と長編詩『樫の木と犬』(1937)を含む自伝的作品の時期を経て、『きびしい冬』(1939)〔大久保輝臣訳『世界文学全集23』集英社、1965所収〕 で乾いたペシミズムの作風を確立した。以降、わが国でも翻訳で知られる『わが友ピエロ』(1942)〔菅野昭正訳、『現代フランス文学13人集 3』新潮社、 1965所収〕、『人生の日曜日』(1952)〔白井浩司訳『世界文学全集23』集英社、1965所収〕、『地下鉄のザジ』(1959)〔生田耕作訳、中公文庫、1999〕 、『青い花』(1965)〔滝田文彦訳、筑摩書房、1969〕、『イカロスの飛行』(1968)〔滝田文彦訳、ちくま文庫、1991〕などの小説のほか、 数々の詩集、評論集、翻訳、さらには宇宙生成論、数学に関する論考まで残している。その該博な知識から、『プレイヤード百科事典』編集の統括責任者 ともなった。
1960年数学者のフランソワ・ル・リオネとともにグループ「ウリポ」(潜在的文学工房の略称)を設立、制約を想像力のバネにするという 逆説的な発想によって、知的で同時に遊戯的な作品の構築を目論んだ。ある一つの変哲もない出来事を、99通りの文体で変奏する『文体練習』(1947) 〔朝比奈弘治訳、朝日出版社、1996〕は、クノーの資質を全開させたウリポ誕生前のウリポ的作品であると言えよう。
晩年は社会的な発言に加わることなく 、若い頃親しんだルネ・ゲノンの東洋思想に戻っていった。1972年妻のジャニーヌを亡くし、76年パリで死去。小説が映画化され、シャンソンに詩が使われるなど、 広く親しまれた作家だった。ロシアより亡命したヘーゲル学者アレクサンドル・コジェーヴによるヘーゲル「精神現象学」講義を編纂し刊行した (抄訳『ヘーゲル読解入門』国文社)ことでも知られる。
訳者 :宮川明子(みやがわ・あきこ)
1940年生まれ。東京大学卒業。明治学院大学フランス文学科教授。仏文学研究。
詩集に『不確かな朝』(新芸術社、1963)、『物語N』(深夜叢書社、1975)。 訳書に『ジャリ詩集』(思潮社、1968)、『ユビュ王コミック』(青土社、1993)、『超男性ジャリ』(作品社、1995)など。