グローバリズム下、舞台とドキュメンタリーの新しい関係が、いま、始まる
いま舞台芸術ではフィクションが機能しなくなっている。それはグローバリズムと無縁ではない。世界各地で社会構造が変化し、ひずみが生じて来ており、そのひずみといかに向き合うことができるのか、それが現在、舞台芸術の最大のテーマとなっている。しかし、ここでは舞台が従来得意として来た、社会的な出来事を劇的に再構成する方法はもはや通用しない。わたしたちはいま、劇的に現実の諸問題を解決してしまう舞台でなく、わたしたちを現実の諸問題へとさしむけるインデックスとなる舞台を必要としているのである。いまそのもっとも極端な形態として、虐殺を生き延びた者たちを舞台に召還し、証言を行わせるドキュメンタリーの表現形態でグローバリズムに拮抗しようとするアーティストたちの戦略がある。かれらの戦略にいかなる可能性があるのか? 本号では、グローバリズム下における、<ドキュメント=記録>を媒介とした舞台芸術の想像力を問う。
舞台芸術09
品切
責任編集=太田省吾・鴻英良
特集=記録主義 Documentarism
- 刊行年月:2006年1月20日発売
- A5判並製308頁カバー装
- 本体価格2,000円
- ISBN:4-901477-59-5
目次
舞台の記録—-どのようなものとして考えるか 太田省吾
イリヤ・カバコフの鞄 鴻英良
■特集=記録主義■
ローリー・アンダーソン インタヴュー 聞き手=鴻英良
記録と自由
自伝とドキュメンタリー—-自己【ルビ=セルフ】と社会正義 キャロル・マーチン 訳=内野儀
異化する〈事実〉—-ドイツ・ドキュメンタリー演劇について 高橋順一
共同討議のための基調報告
〈ドキュメンタリー〉が切り開く〈舞台〉 森山直人
共同討議
事実とは何か—-ドキュメンタリズムの〈関係〉と〈構造〉をめぐって
佐藤真/港千尋/川村毅/鴻英良/八角聡仁/森山直人
抵抗の美学のために—-証言オペラ『ルワンダ94』の構造と成立過程 フィリップ・イヴェルネル 訳=熊谷謙介
ドキュ・パフォーマンスの理論と実践 オン・ケンセン 訳=山田晋平
武井昭夫 インタヴュー
記録のアクチュアリティを求めて 聞き手=森山直人
あの時、そしてあの時の記録 ローリー・アンダーソン 訳=都甲幸治
記録と記憶—-機械的複製技術と舞台芸術 渡邊守章
舞踊=眼—-インタラクティヴ・ダンス・パフォーマンス『Turned』 クリスティアン・ツィーグラー 訳=萩原健
■時 評■
「不可能性の時代」の演劇(二)—-〈Jという場所〉と近代芸術という制度について 内野儀
「子供の国のダンス」便り—-オトナは「運動」がキライ!? 桜井圭介
新演出歌舞伎、というもの—-『NINAGAWA 十二夜』の場合 小林昌廣
裏ベケットのさしせまり—-ベケット東京サミットから 岡村民夫
■連 載■
やさしい現代演劇 9 川村毅
ブレヒトと方法 6 フレドリック・ジェイムソン 訳=大橋洋一・河野真太郎
■戯 曲■
聞こえる、あなた?—-fuga #3
太田省吾
舞台芸術研究センターとは
京都造形芸術大学(学校法人瓜生山学園)が2001年4月に開設した舞台芸術研究センターは、 舞台芸術の全創造過程を研究対象として、乖離しがちであった創造の現場と学術研究とのより有機的な結びつきを推進しています 。京都芸術劇場(「春秋座」「studio 21」)という学内劇場を活用することで、この関係が当センター独自のものとして確立され ることとなります。また、映像・舞台芸術学科を中心とした学内研究員による上演実験とその研究活動のみならず、学外の研究員や 国内外の研究機関との共同研究など、過去にない新たな舞台芸術研究のネットワークづくりを目指します。現在の日本の舞台芸術、 文化情況が狭窄的ではないかという共通理解のもと、それを解放するための多様な試みとしての『舞台芸術』を年3回刊行します。
http://www.k-pac.org 住所:〒606-8271 京都市左京区北白川瓜生山2-116
TEL:075-791-9437 (舞台芸術研究センター事務所)