旧約聖書におけるアブラハムの供犠と証しを倫理と宗教の両面から考察しつつ、〈暴力批判〉と〈責任の逆説〉を根源的に分析。オランダ哲学の新境地が、デリダ以後の問いを深化させる。暴力論叢書第四弾。本邦初紹介の哲学者、来日記念出版!
ヘント・デ・ヴリース『宗教と暴力』への推薦文
※注—-『暴力と証し』はこの本の第二章と序文を翻訳したものです
本書においてヘント・デ・ヴリースは、もっとも難解な著者たちの何人かを取り上げている。カント、キルケゴール、ベンヤミン、レヴィナス、そして—-いたるところで言及されている—-デリダといった人々がそれである。それとともに彼は、哲学におけるもっとも困難な問題のいくつかを取り上げている。その結果として本書は、豊穣かつ有益で、きわめて重要な書となったのである。デ・ヴリースは、世俗的な人々および私たちの内なる世俗性に対しては、あるものがどんなとき「宗教的な」ものとなったり、「啓蒙」されたり、「民主主義的な」ものとなったりするか知っているのかどうかを、また敬虔な人々に対しては、どんなとき神(一神教の神であれ多神教の神であれ)を崇拝したり、絶対的な悪を崇拝したりするか知っているのかどうかを再考するよう促している。このように述べたからといって、デ・ヴリースの議論において吟味され鮮やかに結びつけられているすべてのテーマを完全に説明したとは到底言えない。本書は、それをただ読むのではなく、繰り返し読むことを求めているのである。
ヒラリー・パットナム
ヘント・デ・ヴリースは、哲学的、倫理的思想における宗教的考察の根本的役割について、精査され申し分のない博識に裏づけられた省察を行っている。彼は、あやまちを倫理的転回にとって不可欠なものとして寛大に理解することを提示することによって、倫理を道徳に(そして道徳主義に)還元することに反論している。倫理が政治に取って代わってしまったのではないかと危惧する人々に対しては、それらが密接な関係にあることの不可避性を示すことによって反論している。本書は理知的な複雑性と強度をもって波紋を投げかけているのである。
ジュディス・バトラー
ヘント・デ・ヴリースは、またひとつ、宗教哲学に対して格別な貢献を果たした。傑出した技量と驚くべき洞察によって、デ・ヴリースは、カントからデリダに至る幅広いテクストを問いただし、「世俗的啓蒙」に関する一般的イメージを再考するようわれわれに促している。この価値ある書は、宗教哲学者だけでなく、人文科学に携わっている者で、厄介な問題を抱えた近現代が持つ概念的多義性を理解することに真剣な関心を抱いている者であれば誰でも、最大の興味をもって読むことができるはずである。
タラル・アサド
原書: “Violence and Testimony: Kierkegaardian Meditation” and “Horror Religiosus: Introduction” from RELIGION AND VIOLENCE (The Johns Hopkins University Press, 2002), with a Preface to the Japanese Translation.