《書く》という営為そのものを主題とし、《書くことを書く》試みのめくるめき変幻と遷移によって、《書く者》の意識の流れと記憶の連環を不可視の領界から紙幅という肉体へと浮上させた稀有な小説。虚無が支配するしるしなき白い沈黙の王国は、本書によって破られる。ジョイス以後の文学における言語実験の一頂点をなしたソレルスの傑作。待望の改訂版(初版は新潮社より1967年刊)。【叢書・エクリチュールの冒険、第9回配本】
本書の造本について:本文は作品中の描写に倣って白い紙に墨のインクで刷っています。カヴァーはパール系の白い特殊紙に書名をレインボー箔で加工。
本書より:まずはじめに(最初の状態、線が何本か、版画――演技〔ゲーム〕がはじまる)、目と額の内側に集まってくるのは、もっとも安定度の高い要素なのかもしれない。すばやく彼は調査する。海の思い出が一連の鎖となって右腕を通りぬける。なかばめざめ、なかば眠った状態でそれをとらえるのだが、まるで風にあおられた泡のようだ。左脚は逆にさまざまな鉱物の集団の作用を受けているらしい。背中の大部分は、たそがれどきのいくつかの部屋のイメージを、上下に積み重ねて保っている。
原書: Drame, Seuil, 1965.