叢書=生命の哲学 2
池田清彦 著
代謝、免疫、遺伝、発生、進化など、生命はすべての局面で時間と共に変化する。 しかも自ら生成する生命は、変化する自らを常に確定し同一性を保つ。 ヒトは、とはつまりヒトの脳はそのような生命を非生物から直感的に分かつ。 あるいは種の同一性を見誤ることはない。 同一性の存在論と認識論を検討し、時間の生成の謎を解き生命システムの原理に迫る。
ベストセラー『新しい生物学の教科書』 で、生物学全体を見渡した著者が 生命とは何か、生きているとはどういうことか を原理的に解き明かしました。 同一性と時間という問題が浮かび上がりました。 たとえば 「種」の同一性とはなにか ひとは犬と猫と馬を見誤ることはありません。 何が同一で、何が異なるのか。 30年前の私と今の私、私は私 細胞を構成するタンパク質はすっかり入れ替わっているのに私は私です。 しかも私は確実に老いています。同じなのに変わる。 そして時間とは何? 時間があるのではなくて、 言葉が時間を生み出すのです。 生命システムは自らを作る 代謝、免疫、クオリア、進化・・・ 生命システムはオートポイエーシスです。 その根幹は同一性と時間です。
定価1,900円(税別) B6版 245頁 2002.7.1. 初版発行 ISBN4-88679-079-8
第一章 生物に見られる同一性の諸相 代謝と循環 オートポイエーシス 免疫 遺伝、発生、進化 第二章 同一性の存在論と認識論 ポパーの三世界論と同一性 コトバと同一性 脳と実在 クオリアと同一性 因果性と脳 第三章 進化における同一性と非同一性 ネオダーウィニズム 生命システムと選択 進化における拘束性 種と同一性 進化と分類 第四章 時間と生命の形式 時間と非対称性 ルールと布置 創発性と時間の生成 あとがき
7 12 24 32 45 57 65 77 92 104 117 127 137 156 174 184 192 203 208 218 226 243
1947年東京に生まれる。71年東京教育大学理学部生物学科を卒業、現在は山梨大学教授。 分子、細胞から個体まで、生物が見せるさまざまなふるまいを分析し、認識論から存在論まで 哲学上の論理を横断して、生命というシステムを原理的に解明する。 主な著書に『構造主義生物学とは何か』(海鳴社、88)、『構造主義と進化論』(同、89)、 『構造主義科学論の冒険』(毎日新聞社、90、講談社学術文庫、98)、 『分類という思想』(新潮選書、92)などがある。中村雄二郎との共著『生命』(岩波書店、98) はインターネット上に公開されたダイアローグ。他に著訳書多数。
ひとつだけ気になることがあった。 ・・・ある同一性から別の同一性への変換 を共時的恣意性という概念で一刀両断してすませてきたが、ここの内実をもう少し 検討すれば、同一性と時間の関係について少しく別の鉱脈に当たるのではないかということであった。 ・・・ より一般性のある理論が、とりあえずは構築できたのではないかと自分では思っている。
意識のなかにあって、時間を生成する同一性、クオリア、オートポエイシスの三つは、脳内における 同一のプロセスの別名なのであろう、という本書の主張は、とても衝撃的です。 たぶん生物学の新しい局面を開くでしょう。
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